自覚
その日、ジョセフは修行場であるエア・サプレーナ島を離れ、ヴェネチア市街にいた。島で不足した食料や日用品の買い出しのためである。日々の細かい買い物であればスージーQがこなすのだが、たまたま不足が重なってしまったらしい。これは大荷物になりそうだということで、力のある若い男――すなわちジョセフとシーザーが使いに出されたのだった。男手というなら師範代たちもいるが、つまるところ、島での序列においては弟子である彼らが一番下っ端なのである。あるいは、ほんの一時でも島の外の空気を吸わせてやろうという、師のせめてもの親心もあったのかもしれない。 ****** ――あいつが悪いわけでは、ないのだ。 買い出しに出たヴェネチアの街で、別れたジョセフを待っている間に、男に声をかけられた。 それから今日一日、気が晴れぬまま今に至る。 ****** 島に戻り、その日の最後の修行メニューを終えるまで、シーザーはどこか不機嫌なままだった。 ****** ジョセフの部屋の前に立ったシーザーは、ひとつ息を整えると、軽くノックをしてドアを開けた。 ****** 「おまえ、男と寝たこと、あんの?」 ****** 目を瞠ったジョセフの眉が、悲しげに曇った気がした。 シーザーが目を覚ますと、ジョセフが横で体を起こしてを見下ろしていた。その神妙な顔と、下半身のだるさに、昨夜の記憶はすぐに蘇った。
とはいえ、命の懸かった突貫修行中の身に、遊び回るような時間までも許されるはずはなく、言い渡された刻限までに戻らなければ、地獄のような追加特訓が課されるであろうことは間違いない。この期に及んで厳しい訓練を厭いはしないが、罰として受けるのでは気乗りが違う。
そんなわけで、効率よく買い物を済ませるべく二手に分かれることにし、自分の担当分を買い終えたジョセフは、シーザーとの待ち合わせ場所に向かっていた。
久々の外界を時間ギリギリまで満喫してやろうかとも思ったが、気障なスケコマシのくせに修行に関してはやたらと生真面目な兄弟子はきっと先に待っているだろう。遅くなって叱られるのも癪だし、ひとりで待ちぼうけているシーザーを想像すると、なんとなくつまらない心持ちになって、ジョセフは足を速めた。
案の定、待ち合わせ場所にはすでにシーザーの金髪が見えた。いや、正確にはすぐ脇の路地に、だ。誰かと話をしている風である。
「なんだァ、女の子でもひっかけてんのか? やっぱりスケコマシはスケコマシだぜ……、っと」
よく見れば、相手は男だった。壮年のそれなりに整った身なりからするとチンピラに絡まれているというわけではないようだが、どうも様子が妙だ。目元をにやつかせてシーザーを眺めまわすと、撫でるように腕に触れる。
それを振り払おうとした拍子に、シーザーもジョセフに気付いたらしい。
「JOJO!」
名を呼ばれ、大股に近付くと、シーザーはするりと滑り込むようにジョセフに身を寄せた。
「連れが来たんでね、悪いなオッサン」
言葉とともに軽く背を押され、歩を促される。背――というより腰に近いあたりに添えられたその手の感触を、妙に色っぽく感じたのは気のせいだろうか。視界の端に、男が鼻白んだ表情で去っていくのが見えた。
男の姿が消えると同時に、シーザーの手がぱっと離れた。
「ちょっとしつこくてな、助かったぜ」
「あー……、ひょっとしてシーザー、ナンパされてた?」
ちらりと視線をやると、チッと舌打ちが返ってきた。
「でも意外だぜェ、ブン殴って逃げりゃいいのに」
「……こんなところで騒ぎを起こしたら先生に迷惑がかかるだろう。あしらい方はある」
「ふぅん。……ってェことは、お前ああいうの慣れてんの? やだァ、シーザーちゃんたらスケコマシなだけじゃないのねェん」
なんだとJOJO!――と、いつものように怒声が飛んでくるのをニヤリと待ち構えたジョセフに応じたのはしかし、予想外の沈黙だった。
(あれ……?)
そろそろとシーザーの顔を窺うと、彼はひどく冷めた目をしてジョセフを見ていた。
「シーザー…?」
「……うるせェよ」
吐き捨てるように顔を背けると、そのままスタスタと歩き出す。
「おいシーザー!」
あわてて後を追ったが、船着き場に着くまで、シーザーは振り向きもしなかった。
修行後の汗を洗い流しながら、さっぱりする身体とは裏腹に沈む気分を持て余して、シーザーは深く息をついた。
始まりは、こうだった。
それだけならまだよかった。不本意だがまあたまにあることだし、適当にあしらえばいい。だがよりによってその男は、いくらならいい、と言い出したのだ。ニヤついた顔で腕に手を這わされて、反射的に拳を上げそうになったところで、ジョセフの、周囲より頭ひとつ抜き出た大きな図体が目に入った。
――ちょうどいい、利用させてもらおう。
JOJO、と呼びかければ、のっしのっしと近付いてくる。妙なマスクをつけた大男の出現に、件の男はひるんだようだった。
「連れが来たんでね、悪いなオッサン」
その隙にジョセフの傍らへ寄り、その腰の辺りに手を添えてやった。これくらいすれば勝手に深読みして諦めるだろう。狙い通り男が消えるのを確認して、手を離す。
「ちょっとしつこくてな、助かったぜ」
「あー……、ひょっとしてシーザー、ナンパされてた?」
ちらりと投げかけられた視線に、こいつはちゃらんぽらんなようでいて鋭い奴だった、と舌打ちする。
「でも意外だぜェ、ブン殴って逃げりゃいいのに」
「……こんなところで騒ぎを起こしたら先生に迷惑がかかるだろう。あしらい方はある」
ほんとうは、ぶん殴る寸前だった。
「ふぅん。……ってェことは、お前ああいうの慣れてんの? やだァ、シーザーちゃんたらスケコマシなだけじゃないのねェん」
ジョセフの言葉に、深い意味はなかったのだろう。ただ声をかけられたことをからかっているだけなのだ。だが、男に声をかけられてから胸のあたりにわだかまっていたものが、すうっと冷え固まって鉛のように沈むのを、シーザーははっきりと感じた。
いくらなら、と言った男のまとわりつくような、値踏みする目。
少年時代を、貧民街で過ごした。何も持たない子供にとって、元手は体ひとつあればいい、捕まるリスクも少ない、身売りはもっとも手っ取り早く金を手に入れられる手段だった。腕っ節も強くなり、盗みやら恫喝やらあらゆる悪事を覚えて大人たちに恐れられるようになってからも、気が向けば売る、小遣い稼ぎのようなものだった。
慣れている。そう、慣れているのだ。金で、体を買われることに。
「……うるせェよ」
それだけを返すと、あわてたように名を呼ぶジョセフに応えることもなく船着き場へと歩いた。
しかしいつまでもそうしているわけにもいかない。最後にもう一度シャワーを頭から浴びると、シーザーはジョセフの部屋へ向かった。
怒鳴るなり笑い飛ばすなりしてくれればそれで済むものを、あんなふうに黙り込まれては、仕掛けた方も鬱屈が溜まる。
女ったらしが男にナンパされるなんて、からかいたくもなるというものだ、と、ジョセフは不貞腐れてベッドに寝転んだまま、頭の中のシーザーに向かってマスクの下の口を尖らせた。
――確かに、きれいな顔立ちをしているとは、思わなくも、ないが。
いわゆる女のような、というのとは違う、だが独特の雰囲気のある整い方だ。出会った当初こそ、いかにも色男を気取った嫌味な顔だとやっかみ半分に思ったものだが、そんな悪感情はもうさっぱり拭い去られている。代わりに、切れ長の目をくっきりと縁取る睫毛の長さとか、自分の角ばったそれより幾分丸みを帯びた柔らかそうな唇の形だとか。一緒に過ごすようになってから、不意にそんなところが目についてどきりとすることが、ジョセフ自身あった。
しかしだからと言って、通りすがりの見知らぬ野郎に妙な目で見られるのは気に食わない。シーザーもシーザーだ。簡単に触られやがって、
………いや。
「いやいやいや待て待て待て」
ズレかけた思考に、ジョセフはがばりと身を起こした。
それではまるで自分が嫉妬しているようではないか。
けれど思い返せば確かに、モヤモヤと面白くない気分は、あの男に気付いた時からくすぶっていたのだ。だからこそ、さっさと笑い話にして吹き飛ばしてしまいたかったのではないのか。
いやまさか、と否定する自分と、どこかすとんと腑に落ちて納得する自分とがぐるぐる渦巻いて、ジョセフは頭を抱え込んで唸った。
「オーノォー…」
「おいJOJO」
「おぅわっ!!?」
突然ドアが開き、かけられた声に、自分でも情けないくらい素っ頓狂な声が出た。
戸口に立った声の主――シーザーは一瞬怪訝そうに眉を寄せ、
「シャワー空いたぜ、さっさと浴びてこい」
それだけを告げるとさっさと身を翻した。そのそっけない態度が、先ほどまでの混迷した思考と相まってひどく癇に障り、ジョセフは思わずシーザーの腕を掴んでいた。
「まだ怒ってんのかよ!?」
「――ッ、蒸し返そうってのか」
「蒸し返すも何も、ずっとむっつり不機嫌にしてんのはおめーの方じゃねーか!」
シーザーが何か言いたげに口を開きかけたが、苛立ちまぎれに飛び出した言葉は止まらなかった。
「だいたいスケコマシのくせに男にコナかけられてんじゃねえよ! ああ何か、おまえそーゆーオーラでも出してんじゃねーの!?」
「、てめェ、」
瞬間的に血を上らせたシーザーの、怒りを滲ませたその睫毛はやはり長かった。身体に染みついているのか、それともシャワー後のせいか、間近で立ちのぼるシャボンの匂いに酔いそうだった。
昼間シーザーに触れられた場所が、今になってじわりと熱を持ちはじめる。
壁にシーザーの肩を押さえつけ、そのまま手を二の腕に滑らせる。あの男が触れたのと同じ場所を撫でると、シーザーが顔を強張らせた。
「……嫌がらせにも程があるぜ」
しかし睨みつけてくる目の光も、尖った言葉を吐く唇の色も、熱を煽るばかりだった。すこし湿った肌の感触がやけに生々しく、考えるより先に言葉が口をついていた。
「おいJOJO」
「おぅわっ!!?」
できるだけいつも通りに呼びかけたつもりだったが、こうまであからさまにうろたえられては気持ちが萎む。やはりジョセフもまだ気まずいのだろう、ここは一晩休んで気分を切り替えた方がいいのかもしれない。
「シャワー空いたぜ、さっさと浴びてこい」
それだけ告げて踵を返した途端、腕を掴まれ、部屋へ引き戻された。
「まだ怒ってんのかよ!?」
「――ッ、蒸し返そうってのか」
「蒸し返すも何も、ずっとむっつり不機嫌にしてんのはおめーの方じゃねーか!」
自分でもそれがわかっているからこうして顔を出したのだ、と言い返そうとした声は、しかし続くジョセフの言葉に完全に吹っ飛んだ。
「だいたいスケコマシのくせに男にコナかけられてんじゃねえよ! ああ何か、おまえそーゆーオーラでも出してんじゃねーの!?」
「、てめェ、」
かっと血が上るのが、自分でもわかった。腕を取られたまま、暫時睨み合う形になる。
唐突に肩を掴まれ壁に押しつけられた。肩から降りてきたジョセフの手が二の腕を這い、シーザーは顔を強張らせた。その時点から見ていたのだろう、明らかに意図的に、あの男が触れた場所を撫でてくる。屈辱に、ぎり、と奥歯が軋んだ。
「……嫌がらせにも程があるぜ」
見下ろしてくる顔を睨め上げたが、ジョセフはひるむこともなく、熱に浮かされたような目をしてシーザーに圧し掛かり、うっそりと言葉を吐いた。
「おまえ、男と寝たこと、あんの?」
至近に迫ったその目の中に、自分を買った男たちと同じ欲の色を認めて、シーザーの頭の隅で何かが切れた。くくっ、と、喉の奥で嗤いが漏れた。
「なんだ、興味があるのか?」
ジョセフの首に、ゆっくりと手を伸ばす。
「なんなら相手してやってもいいぜ。お前も溜まってるんだろ、後腐れもなくてちょうどいい」
口元を覆うマスクをことさら扇情的な手つきで外し、露わになったその唇を親指でなぞってやる。
「どうせ、慣れてる」
それも金で売っていたのだと、それを知ったらこのお坊ちゃんはどんな顔をするのだろう。そう考えて、浮かべた笑みが酷薄に歪んだ。
圧し掛かるようにして壁に押しつけたシーザーの顔から表情が消えた。しかしそれは一瞬のことで、シーザーは低い嗤いを漏らすと、ジョセフを覗き込み婀娜に目を細めた。
「なんだ、興味があるのか?」
首に手が伸びてくるのを、ジョセフはスローモーションのように見た。
「なんなら相手してやってもいいぜ。お前も溜まってるんだろ、後腐れもなくてちょうどいい」
首筋にシーザーの指が触れ、耳たぶやうなじを嬲るように撫ぜる。昼間に触れられたのよりずっとねっとりと色の込められた指先に、身体の熱が高まった。耳元でパチン、と波紋の弾ける感覚がして、マスクが外されたのだと知る。顎をとらえ、親指でジョセフの唇をなぞりながら、
「どうせ、慣れてる」
深くなったシーザーの笑みに、険呑な色が浮かんだ。冷笑じみたその顔は、しかしひどく傷ついているように見えて、ジョセフは靄のかかった頭が覚めるのを感じた。
けれど、一度自覚してしまった熱は治まりそうになく、今謝るのも何か違う気がして、言葉の代わりにゆっくりとシーザーに口づけた。はじめて触れた唇は、想像どおり柔らかかった。
ベッドにそっと押し倒すと、シーザーの目が戸惑ったように揺れていた。もっと乱暴に扱われると思っていたのだろう、自分で挑発したくせに困っているのがなんだか可愛くて、今までの経験なんてどうでもよくなるくらい、優しく優しく抱いてやろうと思った。
なんでおまえがそんな顔をするのだと、そんな思考がはっきりと形を成す前に、唇に温かいものが触れた。柔らかく押しつけるだけのキスをされ、そっとベッドへ押し倒される。壁に押さえつけられた時とは打って変わった妙に繊細なあしらいにシーザーは戸惑った。
冗談じゃないと慌てて逃げ出すか、勢いにまかせて手荒に抱くか、どちらかだと思っていた。よほど呆けた顔をしていたのだろう、ジョセフがかすかに頬を緩めた。嘲笑われた、と思うには、しかしそこに悪意は欠片も感じられず、シーザーはますます毒気を抜かれた。
もう一度、今度はさっきより深く口づけられた。食むように重ねられる厚い唇は、弾力があって存外気持ちいい。侵入してきた舌に応えているうちに、当初の怒りで上った血の代わりに、別の熱が頭を侵しはじめる。
ジョセフの頭が首筋へと移動して、ツンツン跳ねた髪が肌をくすぐるに至って、シーザーは唐突に、自分がジョセフに抱かれようとしているのだ、ということを自覚した。今更ながらに羞恥が湧く、と同時に、その自覚は興奮を煽るものでもあった。
考えてみれば、シーザーにとって、今まで自分を抱いた男は人格など意味を持たないただの「客」に過ぎなかったのだ。抱かれる相手を認識するということ自体、初めてだった。
相手がジョセフだと意識するほど、肌を這うその手や唇の動きを、より敏感に、生々しく追ってしまう。
ジョセフの愛撫は決して上手いというわけではなかった。なにせ女の経験もあるかどうか怪しい男だ。しかし知識として知っているのだろうひとつひとつの行為を、丹念に施していく。まるで処女の身体を開かせようとでもいうような丁寧な愛撫は却って面映ゆく、その気恥ずかしさが一層シーザーの感覚を昂らせる。じわじわと意識ばかりが先走るのに、優しすぎる刺激がもどかしい。
荒っぽく抱く奴も、焦らして悦ぶ奴もいた。どんな抱き方をしようと、それは結局のところ連中が自身の欲を満たすためだった。シーザーはあくまで金の対価として望む反応を返してやるだけのことだ。自分からそれ以上に溺れるのは御免だと、そう自分に課していた。その頃のシーザーは自分の人生に執着などなかったが、それでもそれは、歪んだなりの、せめてもの矜持だった。
けれども今、シーザーは、ジョセフから与えられる快感を貪欲に追っていた。少しでも強い快感を得ようと、自ら身体をくねらせ、ジョセフに擦り寄せる。思わず声が漏れると、胸元に顔を埋めていたジョセフが視線を上げた。身体をまさぐるジョセフの動きが、性感を探るように少しずつ大胆になる。悦いのか、と確かめるように見上げてくる目に、舌を覗かせて誘えば、身体を伸ばして口づけてきた。
腿をジョセフの股間に押し当てると、絡めた舌がびくりと震えた。布地の下で、ジョセフのものが硬く張りつめはじめているのを感じて、ぞくりと期待が腰を走った。逆に自身をジョセフの脚に擦りつける。鼻にかかった吐息を漏らしながら、ぺろりとジョセフの唇を舐めると、うっすらと開いた視線が合い、ジョセフはごくりと喉を鳴らして下腹へと手を伸ばしてきた。
下着の中へ潜り込んだ手が、シーザーのものに触れる。直接的な刺激に、シーザーは背を撓らせた。
さすがに男同士なだけに、こちらは感じるところを心得ているのか、昇りつめるのにさして時間はかからなかった。
しかし何より、悪童めいて輝く目も、減らず口を叩いては不敵に笑う唇も、鮮やかにトリックを繰り出す無骨なくせに器用な指も、今、すべて自分だけのものなのだと、そんな独占欲じみた悦びに支配されて、シーザーはジョセフの手の中で達した。
余韻の中、ジョセフの指が後ろへと忍んでくるのを感じ取る。
貧民街を抜けてからは受け入れることのなかったそこは、最初こそ抵抗を示したものの、じっくりと解きほぐされて、異物感は快感へとすり替わり、奥からうずくような感覚がせり上がってくる。
脚を大きく割り開かれて、指よりもはるかに太く熱い塊が押し入ってくるのに、息をつめて耐えた。ゆっくりと、慣らすように腰を進めてくるジョセフもやはりきついのだろう、眉を寄せているのが見えた。
ジョセフのそれは、今まで受け入れたことのあるどんな男よりも圧倒的な圧迫感をもたらしたが、その熱さに、痛みや苦しさよりも充足感が勝った。少しでも受け入れやすいように、ジョセフの動きに合わせて腰を揺らす。なんとか根元まで埋まると、ジョセフが熱く息をついた。整えようとする呼吸が、意識的にか無意識にか、もうマスクはしていないのに波紋の呼吸になっているのがすこし可笑しい、などと思っていられたのはそこまでだった。繋がったそこから、ぴり、と電流のような衝撃が駆け抜けて、痛みではない、血流に乗って全身を駆け巡った快感に、抑える余裕もなく高い嬌声が上がった。
驚いたのか身を引きかけたジョセフの首を抱き寄せ、腰を擦り寄せる。
「JO、JOォ、……ッ」
もっと強く繋がりたくて、腰に脚を絡めると、どくりとジョセフのものがひときわ脈打って質量を増した。
「シーザー……」
とても大事なものを抱きしめるように、ひどく優しい声で名を囁かれた。それだけで全身が快感に粟立って、シーザーはジョセフを締めつけていた。
「なんだその、きのうは」
「おれが悪かった」
決まりの悪そうなジョセフの言葉を遮って、シーザーは口を開いた。
「おれの八つ当たりだ。おまえには嫌な思いをさせた、悪かった」
勝手に自棄になって半ばむりやり抱かせたようなものだ。謝られては余計に滅入る。おまけに、悪ぶって挑発しておきながら随分あられもなく乱れてしまった気がする。これは恥ずかしい。非常に恥ずかしい。さっさと折れて流してしまうに限る。
しかしなおももごもごと口ごもっていたジョセフが顔を上げ、
「あー、えと、でもゆうべはすげえ…良かった」
「……、おれだってあんなのは、はじめて、だった……、ッ!」
うっとりと熱い目でまっすぐに見つめられて思わず口走り、シーザーは慌てて口をつぐんだ。一瞬きょとんとしたジョセフの目が一転してニヤリと笑う。
「おれたち、相性いいんじゃねえ?」
がしっと肩を掴まれ、顔が近付いてくる。
「シーザー、おまえは『もう一度抱いてくれ、JOJO』と」
「言うかスカタン!!」
ジョセフの顔面に拳をめり込ませた瞬間に腰に走った鈍い痛みを、けれど少し愛しいと思ってしまったことは、まだ言えそうになかった。
貧民街シーザー身売り前提でジョセシー初めて物語。
未来を捨てたやけっぱちで安売りするのも高く吹っ掛けて貢がせる裏の女王様でもいいけど
「身体は売っても心は売らねえ!」的な頑なさがあってもいいと思うんだ
「一蓮托生」の、最初に考えてたバージョンでした
慣れてるつもりだったのにジョセフに予想外に大事に扱われて調子狂ってめろめろになっちゃうシーザーちゃん
…というのを考えてたらこうなった
ついでに波紋の可能性もちょっとぶっこんでみたw
2013/03/09