(おや)
 ふと覚えた違和感に、アラミスはわずかに目を細めた。
 その朝、アトスとダルタニャンは連れだって銃士隊の詰め所に現れた。
 ダルタニャンは、いかにも貴族らしく高雅な年長の銃士にすっかり懐いていたし、アトスもまた、はしっこく愛敬のあるこのガスコンの青年をいたく気に入っていたから、それ自体はさして驚くには当たらなかった。ダルタニャンがしょっちゅうアトスの家に入り浸っているのは周知のことだったし、出勤が重なれば、一方の家に立ち寄って一緒にやってくることも珍しくはなかったのだ。
「じゃあ、おれは」
 銃士隊に顔は知れているもののまだ護衛士であるダルタニャンは、挨拶の軽い接吻を交わし、ここで別れを告げて自分の持ち場へ向かう、これもまたいつもの通り。しかし、アトスから離れるときの仕草が妙に名残惜しげで、一瞬アトスを舐めたその視線はどこかうっとりと夢見心地なもののようにアラミスには見えたのだった。
 一方のアトスを注意深く見てみれば、なにかけだるげな様子を隠しきれていない。いや、けだるげというよりもこれは。
(はん、成程)
 内心舌打ちし、しかし頭に浮かんだ考えに、アラミスは薄く笑んだ。

「アトス、ちょっといいかい」
 建物の中でもまず人目につかない物陰へとアトスを誘う。
「どこか調子が悪いのかい、辛そうだぜ」
「いや、そんなことはないさ。どうしたんだい、いきなり」
 小首を傾げて笑ってみせるその顔にも、かすかに疲れの色が滲んでいる。
 そのまま勤務へ向かおうとするアトスの腕をつかみ、引きとめた。
「そんな艶っぽい顔をしていては、人前には出せないよ」
 アトスは目を見開いてアラミスを見返した。アラミスは微笑を浮かべながら、アトスの頬に触れた。
「今朝のきみはひどく色っぽいよ……ゆうべはずいぶん楽しんだと見えるね」
 けだるさを帯びた表情や仕草が、艶となって情事のあとを物語っていた。
 ダルタニャンめ、まだまだ田舎くささの抜けきらない坊やだと思っていたら、存外手は早かったらしい。
 アトスを壁に押し付け、頬に伸ばした手をすべらせて、親指で唇をなぞる。
「アラミス……!」
「おれとのときは、そんなそぶりを見せたことなんてないのに……彼はそんなに激しかったのかい」
 アトスの頬に朱がのぼった。隙をついて、胴着の留め具を外し、シャツを肌蹴ていく。
 美しい線を描く鎖骨から胸元へ、いくつもの紅い痕が散っていた。白い肌を艶めかしく彩る情事の証に唇を落とし、ひとつひとつ染め直していく。
「やめろ、アラミス……」
 しかし昨夜の熱がまだ残っているのか、言葉とは裏腹に、肌を吸われるたびにアトスの身体は反応を返した。
 胸の突起に口づけ、舌で転がすと、アトスは頭をそらして嘆声を漏らした。執拗にそこを嬲りながら、手を下へと滑らせていく。帯を解き、ズボンの中へと手を滑り込ませてアトスの自身を撫であげると、アトスの身体がびくりと跳ねた。
「ああ、は……、っん…っ」
 優しく握りしごいてやれば、快感の滲んだ声がこぼれる。やがて膝がくずおれそうになるのを、アラミスはその腰を支えて床に下ろした。ズボンを取り去って脚を広げさせると、内股のきわどい場所にも紅い印が認められた。
「ああ……こんなところにも」
 脚の間へ顔を寄せ、他の男の痕を塗り変える。嫌がるように身をよじるのへ、
「彼にもこうされて悦んだんだろう?」
上目遣いに笑みを含んで詰ってやると、アトスは顔をそらし、固く目を伏せた。
 ひときわ白い内腿をひとしきり味わうと、先端から先走りの露をこぼしはじめているアトスのものへ口づけて、アラミスは指でその雫を掬いとり、後ろへと挿し入れた。
 狭いそこを押し広げるようにうごめかし、アトスの苦しげな喘ぎに艶めいた響きが混じってくるのを見計らって、己のものをあてがい一気に貫いた。同時にアトスの唇を自分のそれでふさぎ、悲鳴を押さえ込んだ。
 腰を突き動かしながら、アトスを促す手も速めていく。アラミスの唇の下で声にならない嬌声を上げ、アトスが達すると、きつく締めつけられたアラミスもまた、欲を放って果てた。
 アラミスは、アトスの熱い身体をうっとりと眺めたあとで、手早くその衣服を整えた。


「遅かったではないか、アラミス。アトスはどうした」
「申し訳ありません隊長、アトスは熱を出しまして、無理をして出てきたのを家へ送り届けてきたもので」
 遅れてトレヴィル殿の前へ顔を出したアラミスは、そう告げて優雅に一礼してみせた。

 

 


 

アトスはこの日病欠にされました。

先の「1631年」とは別次元だと思ってください。このダルは早々に手をつけるのに成功したらしい(笑)

アトスをめぐってのダルタニャンVSアラミスは妄想すると楽しい。
もちろん仲間としてお互いは好きなんだけど、アトスがすっかりダルばっかり構うのでアラミスはちょっと面白くなく思っているといい。
ダルも目端が利く奴なので、その辺の感情はきっちり感じとってるでしょう。
20年後も、アラミスはアトスとつるんでてしてやったりと思えば、ダルが出てきた途端にアトスはダルに傾くし(笑)
新王宮前広場の場面がダルVSアラに見えてしょうがない。

アラアト←ダルの場合は素直にやきもち焼きそうなんだけど(バッキンをアラミスと勘違いして喧嘩売ったとき然りの直情怪行で)、
ダルアト←アラの場合はそれを口実にねっとりとイジワルしそう(うちのアラミスのイメージって……)

 

2010.05.05