ロシア版のススメ。
細かい解説も入るので思いっきりネタバレです。そしてすみませんいきなりラストシーンです(笑)
最初からだといつまでたっても始められなそうなので思いついたところから。

ミレディー処刑を咎められたのを、アトスがミレディーから奪った猊下の赦免状で切りぬけるのは原作通り。
(ただしラ・ロシェルの戦場で、4人そろって猊下に呼び出されてるので、赦免状を出すのはアトス)
猊下に赦免状を破り捨てられて、「百年くらいバスチーユ行きかな」「殺されるかな」とかささやき合ってるのがかわいい。
原作と違って、ダル一人じゃなくて4人そろってるからこういうぼやきもみんなでこそこそ。
この4人のつるみ具合がロシア版の楽しいところですv
みんなの危惧とは裏腹に、猊下は赦免状の代わりに無記名の銃士隊副隊長の辞令を差し出しますが、
アトス、ポルトス、アラミスの順に断られ、最後にダルタニャンへ。
各人が断る理由は原作通り、アトスの「アトスには身に過ぎ、ラ・フェール伯爵にはありがたくもない代物」という偉そうな台詞も健在ですが、
こんなところで堂々と「ラ・フェール伯爵」って名乗っちゃっていいのか。
猊下もあっさり受け入れてるしー。

さて、原作ではこれでそれぞれの身の振り方がちょっと描かれて終わり、となるわけですが、
この作品ではこの後に、サン・ジェルヴェの要塞での朝ごはんシーンが入るのです。
辞令をいただくならその代わり、副隊長昇進のお祝いをサン・ジェルヴェの要塞でしてみせましょう、とアトスが提案。
戦地を無断で離れてた形になってるので、臆病者の汚名を払拭しようというわけです。
これに対してまた3人が「そんなことしたら死んじゃうぜー」とぶつくさ。「副隊長の制服を着る暇がないじゃないか」とダル涙目(笑)。
「行かなくても殺されるよ」とアトスは涼しい顔です。結局みんな開き直って、やってやろーじゃないか、と要塞へ。

 

要塞ではアトスが揚々と指揮をとっています。
といってもセリフは、「諸君、パンもあることだし乾杯しよう!」とか言ってますけど。
それにしても、ロシア版の食事は付け合わせが常に生野菜そのまんま盛ってあるw
敵が近付いてます!とまずはアラミスがご注進。サー、とちゃんとアトスを指揮官に見立ててるのがいい。
距離と人数を確認して、じゃあ鶏を平らげてワインを空ける時間はあるな、とアトス。
きみの健康に乾杯、とダルタニャンに水を向けますが、ダルは「他のものに乾杯したほうがいい」とつれないの。
ダル、敵を前にのんきなアトスにちょっとイラっとしてる?(笑)
この辺のやりとりは原作にもありますが、原作だと乾杯はありがたく受け入れるものの、
ミレディーに狙われ続行中なもんだから、「乾杯してくれても役に立たないかも」とぼやくんですけどね。ロシア版の方が冷たい。
そこへ今度はポルトスが敵の接近を知らせますが、まだ大丈夫、とアトスはとにかく朝ごはんを楽しみたいご様子。
何て言おうとしたんたっけ、とダルに聞いちゃう(笑)。そしてダルは「パンに乾杯ってさ」、とぞんざいな返事。
だけどいざアトスが乾杯しようとしたところで、「おれたちの未来に!」とダルが言ってくれました。
それを受けたアトス、この戦争が終わった後のそれぞれの道はわかってる、と各人へ話を振ります。
「アラミスは俗世の生活を捨てるんだろう」
「そうさ、この生活は仮住まいだからね」、とアラミスお得意のフレーズにみんなも笑う。
「ポルトスは故郷へ戻って結婚だ。日曜ごとに夫人が金を渡してくれて、14人も子供を産んでくれるんだ」(このセリフ、なにか元ネタがあるんだろか)
「かわいいちびポルトスどもに囲まれるのさ」、ってこのポルトスの受け答えがかわいいの。ちびポルトス!
「ダルタニャンは元帥に、そして華々しい手柄を立てて引退するんだ」

そして、じゃあきみは、とダルに問いかけられると、それまで楽しそうにしてたのとは打って変わって、
しがない邸ででも暮らすさ、とそっけなく答えるアトス。

…このサン・ジェルヴェのシーンでのアトス、冒頭からやたらテンション高いんですよね。
本編通して基本的に冷静で落ち着いた演技だったので、一見ギャップに戸惑うくらい。
で、ずっとにこにこ笑ってしゃべりまくってた(これも珍しい)のが、ここですっと沈むんです。
アトス、みんなとのお別れが寂しいのごまかすために無理してはしゃいでたに違いない。さびしんぼ伯爵に萌v

そんなアトスを受けて、「おれたちはもう会えないっていうのかい」とアラミスが悲しげな顔。
しょっちゅう「銃士やめる」とか言ってるお前が言うな!(笑)
むしろダルが言いそうなもんですが、ダルにはこの次のセリフがあるのでしょうがない。

  ダル「いいや、また会えるさ」
  ポル「いつ?」
  ダル「20年後に!」
  ポル「もう10年後とか?」
  アト「それとも3、4世紀も経って」

20年後、10年後、は当然原作の続編を知っていればニヤリとできるネタ。
そしてそのあとの、「何世紀か後」っていうのがね。
作中で彼らの生きてる17世紀、そんな彼らをデュマが19世紀に生み出して、
それから20世紀、21世紀と、ずっと世界中で読まれて、いろんな作品が作られて。
この映画自体も含めて、本や映画が作られるたび、そしてそれを私たちが読み、見るたびに、彼らは何度でも出逢うんだなあ、と。
メタ台詞なんだけど、三銃士という作品への愛を感じさせる演出だと思うのですよ。
映画自体は、この時点では続きなんて影も形もなかっただろうけど、結局同じキャストで第2部、第3部、
おまけに21世紀に4作目で「4世紀後」の再会まで実現してしまった
ロシア版の三銃士への愛に乾杯。

そんなしんみり気分を遮る敵の接近、最後はダルが報告。人数は800人、距離は30歩とそろそろ危ない感じ。
アトスがダルに尋ねます。
  「銃は何挺ある?」
  「4挺!」
  「剣は?」
  「4本! おれたちは何人だ? アトス!」
  「おう!」
  「ポルトス!」
  「おう!」
  「…アラミス!

  「ん」
  「それからダルタニャン! ひとりはみんなのために!」
  「みんなはひとりのために!」

この流れがたまらなく好き。
アトス、ポルトスと勢いよく続いて、アラミスだけちょっと間が入るのも何だからしくて良い。
このあとはお別れが待っているんだけど、最後まで息ぴったりに仲良しな4人が愛おしくてたまらない。

そしてEDへ。
歌(友情のバラード)をバックに、高々と手を挙げながら要塞から戻ってくる4人。銃士たちも護衛士たちも喝采で迎えます。
猊下は約束の辞令を用意し、ロシュフォールとジュサックも4人の豪勇を讃えるべく手を挙げ、道を譲ります。
ジュサック、すごい渋々w(ロシア版ではダルたちを直接ジャマする役割はほとんどジュサックが担っていたのです)
帽子と歓声が飛び交う中、再び4人を正面に映し、キャスト、スタッフロールへと流れて幕。
このスタッフロールの途中で、4人がカーテンコールよろしく手を差し出すんですが、何度見てもここでぐっときてしまう。
このEDの曲がまた、朗々と勇壮に歌いあげながらも、もの悲しさを感じさせるので、それと相まって、
この時間がこのまま続けばいいのに…、とすごくさびしくなってしまうのです。

 


2010.06.12