「そういえばオレ、もう一人、礼言いたい奴がいるんだよな」 それはもう、どこかでぱったり(笑) そんなわけで、自分なりのゼフィーリア前。
林を抜ける街道に、木漏れ日がちらちらと踊っている。枝葉に和らげられた陽射しは強すぎず弱すぎず心地よいけれど、木々を渡る風は少し肌寒く、秋の訪れを感じさせる。 ――あたしたちは、きっとこれから恋をする。
「へえ、誰?」
「それがどこの誰だかさっぱり」
「あのねえっ!なんなのよそれ」
「いやあ、たまたま行き会ったおっさんでさ。名前聞いてなかったって気がついたの、別れた後だったんだよ」
「まったくぅ…」
「せめて住んでるとこでも聞いてればなあ」
「…聞いてたとしても、あんたがちゃんと覚えてたかどうかあやしいけど…
でもまあ、旅してればいつか会えるかもよ?どこかでばったり」
「……だな」
「会えるといいわね」
「お前さんといっしょにな」
「…そりゃあ、そうよ、もちろん」
原作の範囲内では、あのラストでいいのだと思います。あまりはっきりらぶらぶエンドにされてもなんか違う気がするので。
むしろ15巻は、神坂先生としてはかなり意識的にがんばってらぶを前に出してきたと思う。
ただ自分でその先を考えた時、このままゼフィーリアへ行ってなし崩し的に、ってのは嫌なので。
ガウリイには、リナに「一緒にいたい」という意志をちゃんと伝えてあげてほしいと思うのです。
けどこれだと「恋人」すっとばして「伴侶」になってるな(笑)
お互い大事に思ってるのは確かなんだけど、恋かというとなんか違う。
だからあえて「好き」とかそういう言葉は使わずに描いたんですけど。愛以上恋未満?
これまですっ飛ばしてきた分、これからお互いにどきどきしてればいいよ!
……という自己つっこみを文にしてみました↓
まあそういう関係になっても、「相棒」っていうほうがしっくりくるんですけどね、このふたりは。
ごく当たり前の、季節の移ろい。しばらく前に各地を混乱させた異常気象は、もうすっかりおさまっている。……その理由を思うと、まだ少し胸が痛い。
隣を歩く長身を、ちらりと見上げた。
今、あたしとガウリイは、彼の希望で、あたしの故郷、ゼフィーリアへと向かっている。
最初はブドウが食べたいなどとごまかしていたが、本当はあたしを元気づけようとしてのことだったらしい。
それに関しては、あの時ガウリイが「泣いていい」と言ってくれて、あたしもちゃんと泣いて、もう落ち着いたと思っていたのだけど。こうしてふっと思い出してしまうあたり、彼の心配もあながち間違ってはいないのかもしれない。
だけどそれだけじゃなくて。ガウリイなりに、いわゆる「お嬢さんを僕に下さい」をやるつもりでもあったようだ。というか、そっちがメイン? ともあれ、彼は、あたしの故郷を見たいのだと、そして、これからもずっと一緒に生きていこうと言った。
これって、世間一般で言ったら「ぷろぽおず」というやつになるんだろうけど……うーん、そういう実感はわかないなあ……。いやだって、プロポーズってのは、ふつうは「恋人」という段階を経てされるものじゃないんだろうか。
まだ旅は続けるつもりだし、結婚だとか、そういう形にこだわる気はない。ただ、一緒にいたい、という気持ちをはっきりと伝えてくれたことは純粋に嬉しくて、あたしだってその気持ちは同じだから、彼の言葉にうなずいた。彼のことは、かけがえのない大事な相棒で、ずっとともに歩いていく人生の伴侶だと、それは父ちゃんたちにももうはっきりと言える。
だけど、じゃあお前らは恋人なのか、と聞かれたら、それはものすごく違和感があるのだ。実際そういうコトになってない、というだけじゃなく、気持ち的な問題として。
フィブリゾと戦ったときも、ルークとの戦いでも、結局最後にあたしをつき動かしたのは、ガウリイを失いたくないという思いだった。彼の存在はあたしの中でそれほどのものになっている、それは間違いない事実なのだけど、その気持ちが、恋、と言えるものなのか、よくわからない。
こういう性格だし、乙女ちっくに恋にときめく自分とゆーのも想像できないし、まあ別にいいんだけど。
「リナ? どうした、ぼーっとして」
そんなことを考えながら歩いていたせいか、少し遅れてしまっていたらしい。ガウリイが心配そうに声をかけてきた。
「疲れたなら少し休むか」
「ん、ごめんごめん、ちょっと考えごとしてただけだから。けどちょうど陽も高くなってきたし、軽くお昼にでもしましょっか」
「そうだな、近くに川もあるみたいだし」
らっき♪今日は携帯食のつもりだったんだけど。
「じゃあお昼はお魚さんね♪」
「おっさかっなさん♪おっさかっなさん♪」
って、そういえばガウリイと会ったばっかりのときもこんなことしてたなあ。
「生活力がある」などと感心してたガウリイも、今では慣れたもので、火の支度ができると一緒に釣りに参加する。もっともあたしの方が腕は上だけど。……釣りには短気なほうが向いてるって、ほんとかもしんない。
軽くお腹を満たし、川辺でふたり並んで休んでいると、さっきの疑問がまた頭をもたげてきた。
……ガウリイはどうなんだろう。
座っている分、いつもより頭の高さが近い。なんとなく、ガウリイの頭に手を伸ばしてみた。……あ、驚いてる。
「なんだなんだ、いきなり!?」
「あんた、よくあたしの頭なでるじゃない。楽しいのかなーって」
「いや、楽しいっていうか……」
「なに?」
「ん、なんて言うんだろうな。近くにいるのが嬉しくて、確かめたくなるっていうか」
「ふうん……」
そういうもんだろうか。
頭やらほっぺたやら、なおもぺたぺたと触ってみる。
「……楽しいか?」
ちょっと困ったような顔をして、ガウリイが聞いてきた。
「うん、結構」
ガウリイの言ったことはなんとなくわかる気がする。安心するっていうか。……それに、ちょっとどきどきする。
しばらくそうしていたら、今度はガウリイがあたしの頭に手を伸ばしてきた。いつもみたいになでるんじゃなくて、触れて、そのまま髪を梳くように降りてくる。
「オレも、もっと、確かめたいんだけどな」
頬をすべり、指が唇に触れた。
「……っ!」
甘い顔、というのはこういうのを言うんだろうか。
どこか男くさい、色気のある笑み。
こんな顔、初めて見た。……いや、初めて「見せた」のか。ガウリイが、他でもない、あたしに。
そう思ったら、心臓がひときわ跳ね上がった。
優しい顔も、真剣な顔も、さんざん見てきたけど、この不意うちは反則だ。
どきどきしてるのがなんだかくやしくて、でも目が逸らせなくて、精一杯強がって睨んでやると、ガウリイが、くくっ、と楽しげな笑いを漏らした。
「なに、笑ってるのよ」
返事のかわりに、金色の髪が降りてきて、あたしは目を閉じた。