※「病気がうつるぞ」の後です

ガウリイの機転(……)によりなんとかピンチは脱したものの、手足は未だ縛られたまま。
これをどうにかしないことには話にならないが、さてさてどーしたもんか。
うーみゅ、と考えていると、いつのまにかあたしの顔面キックから復活していたガウリイが声を上げた。
「なあリナ、お前さんの魔法が使えれば、縄、切れるよな?」
そりゃあもちろん、そのくらい朝メシ前ですとも。
頷いてみせると、ガウリイはずりずりとあたしの方に近寄ってきた。
「じゃあ猿ぐつわどうにかしてみるから。ちょいとむこう向いてくれ」
言われるままにガウリイに背を向けて座ると、ガウリイはあたしのすぐ後ろに陣取った。後頭部に気配が近づく。
口で結び目をほどこうとしているらしい。ガウリイの息遣いなのだろう、ちょっと湿った温かい空気が、首筋のあたりにかかるのがちょっとこそばゆい。
しばらくもぞもぞとそうしていたのだが、うまくほどけないのか、一旦気配が離れた。
「うーん、うまくいかんなあ……しょうがない、噛み切るぞ」
言葉と同時に、さっきより近くに温かい気配が降りてきた。
「っ!」
うなじと耳の中間ぐらいの位置に、弾力のある湿った感触。
思わず横目で見ると、淡い金髪が目に映った。
ちょちょちょっと、近い近い近い!!
考えてみたら、ガウリイがあたしの首筋に顔を埋めているような状態なのである。
とりもなおさず、首筋に触れているこの感触はガウリイの唇ということで……
想像しそうになって、あわてて打ち消すが、一度意識してしまったものはなかなか消えてはくれない。
押し付けられた唇の感触を、よりはっきりと感じてしまう。
意識がそこに集中し、小さな動きまで感じ取る。
猿ぐつわの布をとらえようとしたガウリイの歯があたしの肌まで浅く噛み、ぴり、と痺れが身体を走った。
ぎちぎちと歯で布を擦り切る音が、時折漏れるガウリイの吐息と混じり、妙に湿って耳に響く。
ガウリイの唾液で濡れた布が肌に触れると、まるで舐められているような錯覚を起こす。
さらさらと首筋を撫でる、ガウリイの髪のくすぐったさが、胸の中までざわざわと侵食する。
背中に感じる、普段は胸甲冑で覆われている逞しい胸板。触れている場所が熱くてたまらない。
じわじわと高まってくる熱をやり過ごそうと、細く長い呼吸を繰り返していると、
「リナ?」
ぁひゃあうっ!!?
耳元で突然の声。
ぞくぞくっ、と、寒気のようなそうでないような、形容し難い感覚が背筋を駆け抜けた。
上げそうになった声は幸か不幸か、猿ぐつわに遮られたが、身体の芯を震わせるその感覚はまだ消えない。
「大丈夫か?痛かったか」
大丈夫、大丈夫だから、耳元でしゃべるな!!
もお熱いんだか寒いんだかわからない。身体の震えをごまかすように、ぶんぶんと首を振る。
「そうか。もうちょっとだからな」
言って、再びガウリイは猿ぐつわを噛み切る作業に戻ったが。
……もうちょっとって、どれくらいよ……
あたしは涙目になりながら、解放されるまでの時間をひたすら耐えるしかなかったのだった。

 


↑前ページのとあんまりかわらないけど、もうちょっとそれらしく描いてみた

2部のリナだったら内心すごい悶えると思う
このガウリイは純粋に猿ぐつわ切ってるだけのつもりで書いてますが、
13巻のアレはわざとだと踏んでます(笑)